福岡高等裁判所宮崎支部 昭和26年(ナ)4号 判決
原告 水口米吉 外二名
被告 鹿児島県選挙管理委員会
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が昭和二十六年十月一日二六選管第七〇二号を以てなした異議申立に対する決定は之を取消す昭和二十六年八月二十七日執行の鹿児島県農業委員会委員選挙に関し鹿児島投票区を含む第一選挙区の選挙は全部無効とする。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め其の請求原因として、鹿児島県農業委員会委員選挙は昭和二十六年八月二十一日執行せらるることとして、昭和二十六年八月一日「鹿児島県選挙管理委員会告示第一一二号農業委員会法施行令附則第二項の規定に依り定められた鹿児島県農業委員会の選挙を行う。期日を昭和二十六年八月二十一日と告示する」旨の告示があつた。そこで第一区の投票者約三十名は右期日に投票所鹿児島市選挙委事務局に出頭投票せんとしたところ、右選挙は同年八月二十七日に繰延べたとのことであつたので、鹿児島県庁内監査委員室で地方課選挙管理委員事務局員委員長等に面接し、其の不法を難詰した結果、右繰延投票は選挙当日までに選挙管理委員会の招集をなすことなく、選挙管理委員長すら第一区全体の選挙期日が繰延になることを知らず、事務局職員の者が独断裁量してなしたものであるのみならず、繰延期日の告示さえしてなかつたことが判明した。之れ即ち公職選挙法第五十七条違反である。従つて昭和二十六年八月二十七日施行せられた投票は無効であるから本訴請求に及んだと陳述した(証拠省略)。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、鹿児島県農業委員会委員選挙は昭和二十六年八月二十一日執行せらるることとして同年同月一日原告等主張の如き告示をなしたこと、右選挙期日を同年同月二十七日に繰延べたこと及び選挙管理委員会を招集することなく右期日の繰延をなしたことは之を認めるが最初に定めた選挙期日当時はマージ台風が日本々土に接近して居り定期船欠航のため離島方面の有権者総有権者の約一割に該当する十四名が投票不能になる虞があつたので、鹿児島県選挙管理委員会委員長は同年同月二十日農業委員会法第三十一条公職選挙法第五十七条地方自治法施行令第百三十七条に則り前示選挙期日の繰延を決定し直に之を告知板に告示すると共にラヂオを通じて一般に之を周知せしむる方法を講じたのである仮りに告示の方法に瑕疵があつたとしても投票の無効を招来するものではないと陳述した(証拠省略)。
三、理 由
鹿児島県農業委員会委員選挙は昭和二十六年八月二十一日執行せらるることとして昭和二十六年八月一日「鹿児島県選挙管理委員会告示第一一二号農業委員会法施行令附則第二項の規定により定められた鹿児島県農業委員会の委員の選挙を行う期日を昭和二十六年八月二十一日と告示する」旨の告示があつたこと、右選挙期日を同年同月二十七日に繰延べたこと及び予め選挙管理委員会を招集することなく右期日が繰延べられたことは当事者間に争はない。
仍て右期日の繰延は原告主張の如き経緯の下になされたか将又被告抗争の如き事情の下になされたかの争点に付き案ずるに成立に争のない乙第一号証の一、二、第二号証証人有村義盛、黒木清二、宇都兼彦の各証言を綜合すれば、当初定めた本訴選挙期日である昭和二十六年八月二十一日当時はマージ台風が日本本土に接近して居り、定期船欠航の為離島方面の有権者総有権者の約一割に該当する十四名が投票不能になる虞があり、事態急迫で予め選挙管理委員会を招集する暇がなかつたので選挙管理委員会委員長に於て昭和二十六年八月二十日前記選挙期日繰延を決定し、一面之を鹿児島県公報に登載発送すると共に、他面直にラジオを通じて之を一般に周知せしむる方法を講じ置き、次いで同年同月二十三日の選挙管理委員会の席上で全委員の事後承諾を得たことを肯認し得べく、右認定に牴触する証人浜平勇吉、池田基、家村守一、保坂与一、岩坪徹郎、宇都兼康の各証言は当裁判所の信用しないところで其の他に右認定を覆すに足る証左は存在しない。
然らば本訴選挙管理委員会委員長の執つた前示選挙期日繰延の措置は農業委員会法第三十一条で準用する公職選挙法第五十七条第一項地方自治法施行令第百三十七条に適ひ合法のものであつたと謂ふべきである。尤も前示選挙期日の繰延を告知板に掲示したと見るべき確証がないので之は選挙手続に於ける一の瑕疵であることは相違ないけれども、既に前段認定の如き周知の方法が講ぜられてゐる以上、右は選挙自体の無効を招来するものではない。而かも有村証人の陳述に依れば前示繰延選挙期日に於ては有権者の全員が投票をなしたことが認め得らるるところである。叙上説明する理由により原告等の本訴請求を失当と認め之を棄却し訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 甲斐寿雄 山下辰夫 長友文士)